Q1. 干渉SARの基礎・原理に関する質問

Q1-1.「SAR」はどう読むのですか?

「サー」と発音します。

Q1-2.「SAR」とは何ですか?

SAR は、「合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar)」 の略称です。なお、レーダー(Radar)は、RAdio Detection And Ranging の頭文字による略称です。
SARは、人工衛星や航空機などに搭載したアンテナから電波を地表に向けて照射し、地表からの反射波を捉えることで、地表の形状や性質についての画像情報を取得する手法です。
詳しくは、干渉SARの基本をご覧ください。

Q1-3.「合成開口」とは何ですか?

合成開口とは、レーダーによる観測で高い分解能の画像を得るための手法です。

レーダーによる観測で画像の分解能を向上させるためには、電波を照射するアンテナを大きくする必要があります。 しかし、人工衛星から電波を照射して、地表で10 mよりも細かい分解能を達成するためには、アンテナの大きさ(開口といいます)が10 kmを越えてしまい、衛星の搭載機器としては非現実的な大きさとなります。 そこで、小さいアンテナを搭載した人工衛星が移動しながら電波を送受信し、そのデータを後処理で統合し、あたかも大きなアンテナで一度に観測したように「開口」を「合成」することで高い分解能を得るのが「合成開口」の技術です。
詳しくは、干渉SARの基本をご覧ください。

Q1-4.「干渉」とは何ですか?

電波、光、音などは「波」のような性質を持っており、2つ以上の同じ種類の「波」が同じ場所で出会った場合に、波同士が相互作用を起こして、強め合ったり弱め合ったりします。 この現象を広く「干渉」と呼んでいます。干渉の状態を見ることで、それを引き起こした対象物の性質を知ることができます。
干渉を利用すると、電波を用いて対象物までの距離の変化を精密に計測することができます。

Q1-5.「干渉SAR」とは何ですか?

SARの観測データには、衛星と地表間の距離を知るための、電波の位相情報が含まれています。 干渉SARは、同じ地域を2回観測し、それらの受信データを干渉させて位相差を算出することで、この期間に生じた地表の動きを衛星-地表間の距離の変化として捉える手法です。
詳しくは、干渉SARの基本をご覧ください。
干渉SARの説明画像

Q1-6.干渉SARの解析結果はどのような事に役立てられますか?

干渉SARは、地震、火山、地盤沈下、斜面変動等の様々な地表面の変動を捉えることができます。特に面的かつ局所的な変動の有無を確認することに優れています。
変動情報の活用方法は、対象とする事象や解析期間の長さによって、様々なものが考えられます(各論は、Q5.SAR干渉画像の活用・利用・引用等に関する質問 を参照)。

Q1-7.干渉SARと他の測量を比べた場合の、長所・短所は何ですか?

干渉SARは、GNSSや水準測量など地上で行われる測量と比べ、以下のような長所があります。
  • 地域内を一度に面的に観測
  • 地上に観測機器の設置が不要
このため、災害や険しい地形などにより人が入れない場所でも地表の変動を監視することができます。

一方で、干渉SARには以下のような短所があります。
  • 観測できるのは、衛星と地表を結ぶ方向(衛星-地表視線方向)の距離の変化
  • 観測の時期は、衛星の運用スケジュールに依存
干渉SARでは地域を面的に観測できますが、個々の地点(ピクセル)で得られる情報は、その地点が平均的に「衛星にどの程度(変動量)」、「近づいたか/遠ざかったか(変動の向き)」です。 このため、従来の測量のような上下・東西・南北方向の3次元的な変動の測量結果とは異なります。
また、SAR衛星は地球を周回し全球的な観測を行っており、緊急時を除いて予め定められた基本スケジュールに従っています。 このため干渉SARの解析に用いる観測データの日時・期間等は、基本的に利用者側で選択することはできません。

Q1-8.衛星-地表間の距離の変化(衛星に近づく/遠ざかる変動)とは何ですか?

SAR干渉画像中のそれぞれの地点(ピクセル)が周辺と比べて、衛星の方向(衛星-地表視線方向)に向かって、2時期の観測の間に、(衛星との絶対的な距離は分からないが)相対的に、どの程度近づいたか/遠ざかったかという変化です。
衛星に近づく/遠ざかる変動の説明画像

Q1-9.衛星進行方向とは何ですか?

衛星進行方向とは、衛星が軌道上を進行する方向をいい、北行軌道(Ascending)と南行軌道(Descending)があります。

北行(A):

  • 南から北へ衛星が進行します。
  • 電波照射方向が右向きの場合、西側から東側に向かって観測します。
南行(D):
  • 北から南へ衛星が進行します。
  • 電波照射方向が右向きの場合、東側から西側に向かって観測します。

Q1-10.電波照射方向とは何ですか?

電波照射方向とは、衛星進行方向に対し電波を照射する方向です。 だいち2号では基本的には右向き(Right)に照射しますが、緊急観測等では左向き(Left)に照射することもあります。

Q1-11.電波照射方位とは何ですか?

電波照射方位とは電波を照射する方位で、東と西があります。 衛星進行方向と電波照射方向の4通りの組み合わせ(AR、DR、AL、DL:Q1-16. 図参照)に対応しています 。 AR、DLの場合は東に、DR、ALの場合は西になります。

Q1-12.観測モードとは何ですか?

観測モードとは、観測の分解能や観測幅等観測の仕様を分類したものです。 だいち2号の観測モードと記号は次の通りです(Q2-12. 参照)。
  • スポットライトモード:S
  • 高分解能モード(3 m):U
  • 高分解能モード(6 m):H
  • 高分解能モード(10 m):F
  • 広域観測モード(観測幅350 km):W
  • 広域観測モード(観測幅490 km):V

Q1-13.ピクセルスペーシングとは何ですか?

ピクセルスペーシング(空間分解能)とは、地上における一画素あたりの辺の長さを示します。
地理院地図で掲載するだいち2号のSAR干渉画像の標準的なピクセルスペーシングは次のとおりです。
  • 高分解モード(3 m)U:約11 m
  • 高分解モード(6 m)H:約28 m
  • 広域観測モード(観測幅350 km)W:約35 m

Q1-14.入射角とは何ですか?

入射角とは、衛星と地表を結ぶ直線と地球表面の法線とのなす角です。入射角はSAR画像中の場所によって異なるため、通常画像中心付近の入射角を画像の入射角として表示します。
入射角の説明画像

Q1-15.基線長、垂直基線長とは何ですか?

基線長とは、1回目の観測と2回目の観測のSAR衛星の軌道間距離です。 一般的な「基線長」は、下の図ではBにあたります。

干渉SARでは、基線長Bよりも、その視線方向の垂直成分が重要となります。 この基線長Bの視線方向に対する垂直成分を垂直基線長(Bperp)とよんでいます。 干渉SARでは、Bperpが長いほど干渉が悪くなります。
基線長、垂直基線長の説明画像

Q1-16.観測方向にはどのようなものがあるのですか?

干渉SARで計測できる変動の方向は、衛星-地表間を結ぶ方向(Q1-5.参照)、具体的には衛星が電波を地上に向けて照射する方向(Q1-11.参照)です。 衛星から電波を照射する方向は直下ではなく、地球を周回する衛星進行方向に対して斜め下向きに照射しています。
観測のパターンは、衛星進行方向(北行軌道 Ascending/南行軌道 Descending)と電波照射方向(右向き Right/左向き Left)による4通りの組み合わせ(AR、DL、DR、AL:下図参照)があり、観測地域を西側から観測する場合と、東側から観測する場合に大きく分かれます。 地表面に対してどの程度斜め下向きに照射されるかは、入射角(中心)がそれにあたり、これは鉛直方向からの乖離角度です(Q1-14.図参照)。
観測方向の説明画像

Q1-17.衛星の観測条件(衛星進行方向、電波照射方向)によって、SAR干渉画像にどのような違いが見られますか?

衛星の観測条件(衛星進行方向、電波照射方向)が異なると、同じ変動現象であっても、SAR干渉画像の見え方に違いが生じます。
変動が上下方向だけであれば、東西どちらの方向の観測からの観測であってもSAR干渉画像の見え方に大きな違いはありません。 一方で、東西方向の変動がある場合、衛星進行方向と電波照射方向の組み合わせによって、SAR干渉画像の見え方に違いが生じます。 観測地域を、西側から観測する場合と、東側から観測する場合では、同じ変動でも、衛星に近づく/遠ざかる方向が逆向きに見えることになります。
SAR干渉画像の見え方に違いの説明画像

Q1-18.干渉SARで捉えることが難しい変動の方向にはどのようなものがありますか?

衛星と地表を結ぶ視線方向(衛星-地表視線方向という。)に直交する方向の変動の場合、衛星-地表間の距離が変わらないため、干渉SARでは捉えることができません。典型的な例としては以下のようなものがあります。
  • (1)衛星-地表視線方向の距離変化が打ち消される変動
  • (2)人工衛星から見て手前側斜面の変動
  • (3)南北方向の変動
これらの詳細を以下で紹介します。

(1)衛星-地表視線方向の距離変化が打ち消される変動

上下(隆起/沈降)と東西(東向き/西向き)の変動の組み合わせによって、衛星-地表視線方向の距離の変化が打ち消され、変化を捉えられない場合があります。
例えば、観測のパターンが北行軌道・右観測の場合では、東向きと隆起が同時に生じた変動、西向きと沈降が同時に生じた変動は、衛星との距離が変わらないため色の変化は現れにくくなります。
衛星地表間距離が変化しない場合の説明画像
衛星-地表視線方向の距離変化が打ち消される変動
鳥取県中部の地震の地表変動の画像
2016年 鳥取県中部の地震の地表変動(干渉SAR3次元解析結果)

上の図は複数のSAR干渉画像を組み合わせて解析することによって得られた2016年鳥取県中部の地震に伴う地表変動です(Q3-7.参照)。
2016年鳥取地震の画像
2016年 鳥取県中部の地震のSAR干渉画像

2016年鳥取県中部の地震では、衛星-地表視線方向の距離変化が打ち消される効果により、同じ地表変動でも観測方向によって検出される変動の領域・変動量に違いが見られました。
例えば図中黒丸内の東向き・沈降の変動は、西からの観測(AR)では検出されていますが、東からの観測(DR)では検出されていません。

(2)人工衛星から見て手前側斜面の変動

人工衛星から見て手前側斜面では、衛星に近づく水平変動と衛星から遠ざかる上下変動の組み合わせによって、衛星-地表視線方向の距離の変化が打ち消され、変化を捉えられない場合があります。
near側斜面の距離変化の説明画像
衛星-地表視線方向と斜面
知床半島の斜面の画像
手前側の斜面で変化が打ち消される例(知床半島)

衛星から見て、変動箇所の斜面が手前側か奥側かによって、色の現れ方に違いが見られます。斜面の方向・傾斜量によっては手前側の変動が捉えられないことがあります。

(3)南北方向の変動

人工衛星は電波をほぼ東西方向に照射するため、東西(東向き/西向き)や上下(隆起/沈降)方向の変動は、衛星-地表視線方向の距離の変化として捉えることができます。 しかし、南北(南向き/北向き)方向の変動は、衛星-地表視線方向の距離が変化しにくいため、変化を捉えられない場合があります。
南北方向の変動の説明画像
衛星-地表視線方向と南北方向の変動